ー前回のあらすじー
失業保険の給付手続き、健康保険と国民年金への加入を済ませ、立派な〝求職中の無職〟となった束子フロンティア。収入と勤務時間のバランスの取れる仕事を探しつつ、目の端には気になる選択肢がちらついていた。
前前前回の④で少し触れたが、失業保険の給付者は職業訓練を受けることができ、受講には様々なメリットがある。ただそこにも書いた通り、職業訓練とは全日制の学校に通うようなものである。失業保険の給付延長だけを目的とした職業訓練の受講は、訓練の目的に反するという以前に、割に合わないだろうと思っていた。
……しかし年末に興味を持った求人票を眺めながら必須資格を何気なくググっていたところ、その資格が職業訓練で取れることが分かってしまったんですよね。
前提として、ここに至るまでに前職の延長線での再就職という択は選ばないことをほぼ決めていた。幸い例の業務委託の仕事を継続的に貰えているし、とりあえずはこのまま副業としてやっていこうかなと。
そうなると本業としては、前職の経験の一部をスライドして経験者と主張するか、全く未経験の何かを一からやるか、となる。一応、潰しが効きそうな職種の経験もあったりはするのだが、やりたいかと言われると微妙だったり。後者は後者で、ここからまた右も左も分からん仕事をOJTで覚えることを思うと気が重い……。
しかしここに「資格を取ってから有資格者として就職する」という新たな選択肢が現れたのである。
「いや……それは普通に思いつくだろ」と思ったかもしれないが、私はそこそこ長く社会人をやったとはいえ、業界一点突破で受かった会社に入っただけなので、就活においてはごく一般的なファクターなのに完全に頭から抜け落ちているものがあった。一つは「ボーナス」、もう一つがこの「資格」だ。
例えば弁護士や電気工事士のような、資格がないとその仕事をしてはいけないよと決まっている資格(業務独占資格)が有用なのはさすがに分かるが、それはその分野をずっと勉強してきた人が何年もかけて取る難しい試験なんじゃないか。逆に素人でも取れるような資格は、そこまで就職にクリティカルには影響しないだろう。まして中途採用なら資格より経験だろうし、今更取ったところで……。と、ここまでが自分の認識だった。
しかしこれが、そうでもなさそうなのだった。両者の中間には初学者からでも頑張れば取得でき、有資格者のみを対象とした求人が存在する資格というのが、本当はたくさんあるようだ。そういう資格を取れば、新米とはいえ一応はその分野の専門家として仕事を始めることができる(はず)。
皆が就活に際して資格、資格と騒いでいるのはこれのことだったのか……。
ここでやっと職業訓練の話となる。目を付けたのは、公共職業訓練の中で微妙に影の薄い委託訓練だ。何が委託なのかというと、訓練を職業訓練校で受けるのではなく、委託された民間教育機関、つまり専門学校で受けるということだ。
これは東京のものだが、各都道府県ごとに募集科目が公開されていると思う。過去の募集案内を見てみると、大体どんなものがあるか分かる。
特に4月に開講する1~2年の長期コース(専門人材育成コースとか呼ばれている)は、専門学校の通常カリキュラムにそのまま放り込まれる形になる。ここでは単なる資格試験の勉強だけでなく修了により受験資格を得られる、つまり未経験の独学では取得できない資格に繋がるものも結構ある。
そして例によって通っている間は失業保険の延長給付が受けられるので「取るのに時間がかかる専門資格を取って就職」というロングスパンのキャリアチェンジが生活の心配なくできるわけですね。しかも授業料は無料(無料だが、教材費と諸経費だけでもそこそこの金額になる点は注意が必要)。
これ……自分が言うのもあれだが、失業者一人に何百万円注ぎ込むつもりなんだ……。雇用保険ってそんなに払った覚えないんですが。払うだけで利用しない人が相当多いんだろうか……。
興味関心ややりたい仕事の方向性とも一致しており、知りたかったことが学べそうな授業内容である。無遅刻無欠席できっちり学校に通う必要があるとはいえ、拘束時間は朝~夕方まで。働く訳ではないので、受講中は長いリフレッシュ期間と考えることもできる。いいじゃん。いいのでは?
最大の懸念点は「修了後はその職種で就職することが大前提(できれば正社員で)」という点だ。資格だけ取り逃げはダメよということですね。
フルタイムは嫌だと散々言っておいて矛盾するようだが、受講期間後というのも込みで、これはまぁ許容できるかなと思った。新しいことをやるならしばらくは修行だというのも納得はできるし、経験積んでからパートタイムに転職というルートも現実的にあるようだ。何ならパートで就職が絶対ダメということもないようだし。
しかし、その仕事が本当に自分にできるのかどうか? こればっかりは未知数である。職業訓練で就労者を生産しようとしている、ということは人手が足りてないということで、つまりそれはそういうことのような気がしますし。
うう〜〜ん…………。
とはいえチャンスには違いないし、ここまでで一番具体的な見通しが立ち、自分的にも乗り気になれるものだったので、やったれということで応募することにしました。あ、科目は秘密です。
応募にあたって必須だったのが、
- ハロワの職業訓練窓口で相談
- ハロワのキャリアコンサルティングを受けて受講の必要性を証明してもらう
- 事前予約&ジョブカード(職務経歴+棚卸し+適正診断みたいな書類)の作成
- コンサルティング専門窓口で相談
- ハロワに応募書類(志望動機の作文あり)を提出
- 訓練校で選考面接を受ける
マストではないがやっておいた方がいいのが、
- 訓練校の学校説明会に参加する
- 訓練校卒業後の就職先や仕事内容について調査
これもう企業に応募するのと同じくらい手間だな……ということで、1月から2月にかけてはそんなことをぼちぼちやっていました。旅行も行ったけど。
特に面倒だったのがキャリアコンサルティング。ジョブカードは棚卸しのガイドラインとしては悪くなく、むしろ良い教材だと思うんだけど、職業訓練前コンサルティングの場合はどうしても「だからこの職業訓練を受けたい」という結論ありきにならざるを得ないので、結局は形式的なものだと思いましたね。相談そのものについても「本当にこの講座でいいのか」や「こういう経歴と希望なら他にもこんなものがある」というような可能性を広げるようなことはしてくれなかったので、やっぱり形式的な色合いが強いように思う。
申し込めるタイミングも限られているし、基本はこっちから「これを受講したいんですけど」って言って進めてもらう感じですね。「相談の結果としてちょうどぴったりの職業訓練に受講指示が下りる」という理想的なストーリーに沿った事例がどれだけあるのかは謎。
選考は決して超難関というわけではないのだが、人気の講座では倍率は2倍程度になり、就職の見込みがなさそうだと判断されれば定員割れでも落とすこともあるらしい。ここまで書いたような恩恵を思えばもっと倍率高くてもいいはずだとは思いますけどね。
で、気になる結果なんですが……合格してました!
あまりにも遠い経歴だったので場違いで弾かれる可能性もあると思っていたが、よかった。ってことは4月から急に専門学生になるのか……! この顛末はさすがに予想していなかったです。
一応これをもって、今回の自分の「退職活動」は一旦の区切りを見たと言っていいと思う。実際に希望の条件での就職が叶うかどうかは先送りになった形ではあるが……。
次回、ここまでで分かった「退職するとどういうルートがあるのか」の概観をまとめて、「退職についての覚え書き」の連載は一旦終わろうかなと思っています。続く。